自作NOS DAC 〜TDA1543+CS8414〜

Japanese/English

English version here.

listmarkはじめに

タイムドメイン(TIMEDOMAIN)社の由井さんの講義を聞く機会を得たので行ってきた。

周波数領域でフラットになるように設計し、良い音に聞こえるように味付けする現行のアンプやスピーカー作りは間違っている。
また、現在の音響工学が確立されてから70年も経っているのに忠実な原音再生ができていないはその理論が間違っているからだ、などなど熱弁しておられた。

「何を言うかこのおっちゃん」と内心反論していたのだが、"TIMEDOMAIN light"を実際にその場で鳴らしてくれた時には一瞬にしてタイムドメイン理論を崇拝するようになってしまった。

TimeDomain        TimeDomain

小さなプラスチックのスピーカーから驚くべき音が溢れ出した。
どこにスピーカーがあるのか感じさせない素晴らしい音だった。

講義の中で、由井さんは次のような実用的なことを教えてくれた。

アンプについて
・忠実な原音再生をするためには、ネガティブフィードバックを使うのは好ましくない。
それは、次のようなことが起こってしまうためである。外からスピーカーユニットに入ってくる音によりユニットが振動してしまう。その振動に応じて誘導電流が生じ、そのノイズがアンプのOUTPUTから入って来てしまう。アンプはそのノイズを含めて帰還補償してしまうので原音再生にならない。
・周波数応答ではなく、インパルス応答に基づいて設計するべきである。
周波数応答はsin波を入力に入れた時の応答である。それでは"音"に対しての応答ではない。"音"に対して設計するのであればインパルス応答に基づかなければならないはずである。これは、タイムドメインという名であることからも、タイムドメイン理論のコアな部分であることが伺える。
スピーカーについて
・バスレフは原音再生の観点からは間違っている。
バスレフによる低音強調は、低音が致命的に遅れてしまうために迫力が出ない。
そもそも、原音再生になっていない。
忠実に原音再生すれば低音を強調せずとも十分な低音が出る。
・ユニットは可能な限り軽いものを用いる。
重たいユニットでは遅れてしまい原音を再生できない。軽ければ原音に近い反応ができる。
・ユニットは動かないグランドに取り付けられているべきである。
スピーカーが出す音でエンクロージャは振動してしまうので、振動しているエンクロージャにユニットを付けてそれを基準にしていては正しい音が再生できない。
振動しないグランドを用意するべきである。

思えば私のシステムはタイムドメイン理論に反するものばかりだ。
PCM2704は2つも負帰還を使ってしまったし、TA2020の入力にも恐らく負帰還がある。
スピーカーはバスレフで12cmユニットだ。

このシステムで現在は十分に満足しているが、タイムドメイン理論を試してみたい。
そこで、負帰還を恐らく使用しないDACを作ってみることにした。
可能な限り原音再生に近付きたい。

listmarkTDA1543 と CS8414

オーバーサンプリングとは
標本化定理により、信号に含まれる周波数の最大値fの2倍以上の周波数(2f)でサンプリングすれば原信号を完全に復元できる。
しかし、完全に復元するためにはエイリアシングによる基本周波数の整数倍の高調波をLPFで除いてやらなければならない。
このLPFが厄介で、理想的なLPFなら良いのだが実際には鈍ったLPFしか作れないので原信号の高周波を少し歪ませてしまう。
LPFのカットオフ周波数はエイリアシングの影響を回避するためにサンプリング周波数fsに設計する。
その時、2fよりも高い周波数n*fsでサンプリングしてやるとLPFの鈍りに原信号が影響を受けなくなるので原信号を歪ませること無く復元できる。
また、混入するノイズを総じて見れば低減できる。
これを、オーバーサンプリングと言う。

というように記憶している。
私の説明は怪しいが、「電子工作室の下の方」や、「ΔΣ変調の特徴」に詳しく分かりやすく書かれている。

オーバーサンプリングは良い事ばかりのように思われる。
最近のDACはほとんどがオーバーサンプリングのΔΣ変調を採用しているので、実際良い事が多いのだろう。
しかし、wikipediaのΔΣ変調の項を見ると、フィードバックが使われている。

このフィードバックまでがタイムドメイン理論に反するのかは甚だ疑問だが、オーバーサンプリングをせずしてD/A変換をするPHILIPSのTDA1541AやTDA1543というICは良い音を鳴らすと評判なので、一つ作ってみることにした。

TDA1543 nosDAC

TDA1543

TDA1543 datasheet (pdf)
データシートが1991年となっており、古いICであることが伺える。
また、Dual 16-bit DAC (economy version) (I2S input format)と大きく表紙に書かれている。
economy versionとは何たることか。
安価で素晴らしい音を欲すポリシーに適っているではないか。

TDA1541、TDA1543の特徴
・抵抗ラダー型 16bit DAC
・電流出力
・I2Sフォーマット
・デジタルフィルタを内臓していない

デジタルフィルタを内臓していないのが俄かタイムドメイン信者として嬉しい。

電流出力なので、数個のDACチップをパラで繋いで出力することができる。
2パラ、4パラ、8パラなどのキットがネットを徘徊しているとよく目にする。
パラで繋ぐことにより音質アップすると巷で話題なので(もはや古い?)、試してみたい。

I2S出力をサポートしているDAIを使用することでNOS DACを作ることができる。

このI2S出力を持ったDAIを入手するのは今となっては困難である。
CS8412やCS8414などがそのDAIに当たるが、探してもなかなか見つからなかった。
USBレシーバのPCM2706はI2S出力を持っているが他の機器との互換性を考えるとS/P DIF入力のレシーバが欲しいところだ。

ようやく、アスカ無線でCS8414を見付ける事ができた。
しかも、細かい足を予めDIP変換基盤を用いて加工してくれているものがあった。
これは助かる。

CS8414 I2S出力をサポートしたDAI

CS8414

CS8414 datasheet (pdf)

96kHz Digital Audio Recieverだ。
このレシーバでS/P DIFを受けてI2SフォーマットでDAC ICに出力する。
データシートを見ていると、このICで私には分からないありとあらゆることができそうだ。

これらTDA1543とCS8414を使って16bit 96kHzまでのNOS DACを作る。

listmark設計

TDA1543は電流出力なので、I/V変換が必要になる。
このI/V変換には様々な手法がある。
抵抗のみ、オペアンプによるバッファ、真空管によるバッファ、ライントランスによるインピーダンスマッチングなどなど。
I/V変換により音に影響するところは大きい。
今回は原音再生に近づきたいのでシンプルに抵抗1本でI/V変換をすることにする。

また、DACの出力にはサンプリング周波数がカットオフ周波数になるようなLPFが必要である。
DACの出力特性がLPFであるが、TDA1543内にLPFが備わっているのかdatasheetを見ただけでは分からなかった。

また、メインアンプの入力にLPFが備わっていればよいのだが、私の場合メインアンプはTA2020である。

ta2020

TA2020はディジタルアンプということで、D級増幅回路だ。
PWM(Pulse Width Modulation)つまり、パルス幅変調を行う1ビットアンプなのだが、このスイッチング周波数がほぼ800kHzらしく、スイッチング周波数に近い高周波が入力に混じると出力波形に歪みが生じると思われる。
パルス幅変調をする前にスイッチング周波数の半分ほどの周波数をカットする処理をするのだろうとは思うが、TA2020にこの入力段LPFが備わっているのかは分からない。
(御存じの方、ぜひ教えてください)

しかしながら、DAC出力のLPFを省略しているキットが多数ある。
なので、暫定的に省略して作成することにした。
問題が出てきたら後から設けることにする。

また、ジッタノイズを低減するためにリクロック回路を追加した。
西川先生が行っておられるようにレシーバとDACに外部オシレータから供給するやり方の方が良さそうだが、サンプリング周波数は44.1kHzのみであるとは限らず、48kHzやもっと高くなった時の事を考慮し、非同期リクロックをすることにした。
非同期リクロックとは、レシーバのマスタークロックMCKよりも高い周波数かつ高い精度のクロックでSDATA、FSYNC、SCKを叩き直す(整列させる)ものである。

TDA1543 + CS8414 nosDAC 3パラ回路図
 (クリックで拡大)

レギュレータや各ICの電源供給の足には0.1uFのチップコンをデカップリングとして抱かせる。
水晶発信器の電源供給には22pFのチップコンを与える。

デジタル入力は2系統(同軸+光)。
どちらか使っていないデジタル入力からのノイズ混入を防ぐため、リレーで片方の入力のみをDAIに繋ぐようにしている。

TDA1543は3パラに。

電源供給はCS8414、水晶発信器と74HC74、TDA1543にはそれぞれ個別のレギュレータを使用。

listmark部品集め

TDA1543とCS8414さえ手に入ればあとは好き勝手に選ぶことができる。

  部品 個数 部品詳細 値段(1個) 購入先
  TDA1543 3   1,050 円 シリコンハウス共立
  CS8414-CS 1   2,300 円 アスカ無線
  74HC74 2   50 円 アスカ無線
  74AC74 2   70 円 アスカ無線
  光レシーバ 1 TORX179 230 円 アスカ無線
  三端子レギュレータ(5個パック) 1 NJM7805 250 円 秋月電子
U1 水晶発信器 1 67.108864MHz 300 円 秋月電子
  リレー 1 Y14H-1C-5DS 80 円 秋月電子
Q1 トランジスタ 1 2SC1815 21 円 シリコンハウス共立
  22pF 1 セラミック 10 円 シリコンハウス共立
C2,C3 0.01uF 2 APS ニッセイ 21 円 シリコンハウス共立
C1 0.068uF 1 MTFF050J683 21 円 シリコンハウス共立
D4 0.1uF(25個パック) 1 チップコン 100 円 秋月電子
C5,C6 22uF 2 BG-NX交直両用超低E,S,R超低雑音 189 円 若松通商
R2 470uF 3 OS-CON SP 250 円 アスカ無線
L1 47uH 1 TSL0709-470KR94 105 円 若松通商
R9-R11 22Ω 3 ニッコーム 42 円 若松通商
R19 51Ω 1 酸化金属皮膜 21 円 シリコンハウス共立
R1 75Ω 1 リケノーム RMA 78 円 若松通商
R8 120Ω 1 ニッコーム 42 円 若松通商
R2 470Ω 1 リケノーム RMA 78 円 若松通商
R3,R5 750Ω 2 リケノーム RMG 160 円 若松通商
R18 10kΩ 1 酸化金属皮膜 21 円 シリコンハウス共立
R4,R6 100kΩ 2 ニッコーム 42 円 若松通商
VR 多回転ポテンショメータ2kΩ 1 3296W 80 円 秋月電子
  ケース 1 UC9-5-12DD 2,050 円 若松通商
  スイッチングACアダプター 1 9V 2.5A 600 円 秋月電子
  RCAジャック赤黒白 3 MR-565 136 円 シリコンハウス共立
  青色LED(5個パック) 1   100 円 秋月電子
  DCプラグ 1 MJ-14 63 円 シリコンハウス共立
  スイッチ 1 T-881 84 円 若松通商
  スイッチ 1 2MS6-T1-B3-M1-QE-1 70 円 シリコンハウス共立
  ユニバーサル基板 2 ICB-93SG 341 円 シリコンハウス共立
  ソケット 3 8P 25 円 秋月電子
  ソケット 2 14P 30 円 秋月電子
  ソケット 2 列20P 70 円 秋月電子
  ソケット 2 列9P 40 円 秋月電子
  ヒートシンク 3 TO-220 52 円 シリコンハウス共立

デカップリングにOS-CONや、I/V変換の抵抗は理研のRMGなど、要所々々にお金をかけたがあとは安くて良さそうな部品を揃えた。

水晶発信器 クリスタルオシレータ 67.10886MHz

水晶発信器 OSC-004BTNF 67.10886MHz

見た目が高精度そうだったのでこれにした。
2^28Hzだが特にこの周波数にこだわりはない。
三田電波など超高精度のOSCが欲しかったが高すぎる。
これは見た目的に素晴らしいものであるに違いない。

74HC74AP(上)、74AC74

74HC74AP(上)、74AC74

フリップフロップICだ。
74AC74の方が高速だが74HC74よりも電力を食う。
しかし、すずめの涙ほどの違いだろう。
それなら高速の方が良いか。
他にも74VHC74などがある。

ニチコン FineGold 3,300uF

nichicon FineGold 3,300uF 16V

平滑コンデンサとして使用する。
手元にあったもの。
「豊かな低音と伸びやかな中高域を実現」を売り文句にしている。
きれいな音が鳴るのでけっこう好き。

listmark製作

いよいよ実際に製作だ。
デジタル部とアナログ部に基盤を分けることにした。

○デジタル部

nosDAC デジタル部 製作

ニッセイのAPS ポリプロピレンフィルムコンのオレンジ色が映えて良い。
ICがたくさんあるわりに部品数が少ない。

nosDAC 部品を載せたところ

CS8414、TDA1543、クリスタルオシレータ、74AC74を載せたところ。

この状態でバラック状でI/V変換に繋いで音を出してみた。
一発で音が出たが、ノイジーでベースなどが割れたような音だ。

GNDを見直したりリクロック回路をスルーしたりポテンショメータを調節してみたが治らず。

困り果てて2ちゃんねるで質問してみた。
2ちゃんねるの先生方は無敵である。
I/V変換の抵抗が大きすぎたようだ。
750Ω→680ΩにしてTDA1543のVrefのポテンショメータを調節すると嘘のようにきれいな音が出た。
しかし、TDA1543の出力には負帰還が使われているような気がしてきたぞ…。

そして、パラの威力を確認するために 3para→1つ にしてみた。
すると非常に澄んで美しい音になったではないか。
あれ!?
パラるよりTDA1543を1つだけ使う方がよっぽどきれいな音だ。

パラると各ICの経路差から微妙にタイムラグが生じて雑多な音になるのだろうか。
TDA1543を1つだけの回路にすべく、TDA1543のソケットは1つしか繋がっていないように変更。
それに伴い、アナログ部のI/V変換抵抗などを変更した。

※パラにして良い音が鳴る方法をご存知の方、是非教えてください。

○アナログ部

nosDAC アナログ部 回路
 (クリックで拡大)

TDA1543の3パラ→1つに伴いI/V変換の定数変更だ。

R1,R3を1.2kΩに、これによりHPFのカットオフ周波数を稼げるので、2.2uFのフィルムコンに変更。
R1,R3は理研のリケノーム RMG。

指月電機 VE10Y225J 積層メタライドフイルムコンデンサ

指月電機 VE10Y225J 2.2uF 100V 積層メタライドフイルムコンデンサ

一つ210円だった。
なかなか良さそうな感じがする。

nosDAC アナログ部

空いているところは、平滑コンデンサを付け足すためのスペースだ。
今後、必ず何らかの改造がしたくなるであろうから、予めそのスペースを設けておく。

リケノームRMGの金色リード線を使って配線した。
ほんの少しリッチな気分。
また、お道具箱から汚れたMKT1826 0.022uFが出てきたのでシヅキの赤いフィルムの裏側にパラってみた。

○ケースの加工

またしてもタカチ電機工業のUC9-5-12DDを使用した。

UC9-5-12DD タカチ アルミケース

フラッシュの関係で非常に美しく写ってくれて嬉しい。

UC9-5-12DD タカチ 背部

こっちもフラッシュを焚けばよかった。

nosDAC ケース入れ

1階がデジタル部で2階がアナログ部。
三つ編みをした赤と黒の配線材がなぜか毒蜘蛛を連想させる。

さっそくBG-Cが平滑コンに加わっていることに自分でも閉口する。

nosDAC レタリング

インディケーションランプは青色LEDを用いた。
小さな穴を開けている。

listmark完成

nosDAC 前面部 アクリル板で青色LED

青色LEDが眩しかったので、乳白色のアクリル板を買ってきて前面に取り付けてみた。
アクリル板の加工は非常に簡単で嬉しい。

nosDAC 光入力で音出し中

光入力で音を出しているところ。

○音の感想

実にクリアで美しい。
PCM2704のUSB DACに比べ、2枚くらいベールを剥がしたような感じだ。
オペアンプを2つ使ったPCM2704に比べ低音の量感は劣るが、不思議と迫力は負けていない。
かえってTDA1543の方が低音に芯があって迫ってくるものがあり良い。

目指していた原音再生に一歩近づけただろう。

因みに、SoundBlaster Digital Music LX 改からの光入力よりもCM102-A+からの同軸入力の方が音が密な感じがして好み。
デジタル信号のはずなのに何故であろうか。

listmark改良

高周波を扱うので、高周波ノイズを除去するのが高音質に繋がると思い至った。
そこで、このNOS DACをより良いDACにするため高周波ノイズ対策をすることにした。

対策1:

高周波特性の良いコンデンサをデカップリングコンデンサとして大量にICやOSCの電源ラインに投入。

nosDAC ニッセイ APS ポリプロピレンフィルムコンデンサ

ニッセイ APS ポリプロピレンフィルムコンデンサ 220pF 15yen/1個

ビタミン剤みたいだ。カロチンが摂取できそう。
若しくは20円くらいで売ってるガムみたい。

対策2:

スイッチングレギュレータによるスイッチングノイズを低減するため、レギュレータ出力にトロイダルコアとコンデンサでπ型のローパスフィルタを形成。

nosDAC トロイダルコア

トロイダルコイル TC-300M-2A-5026 30uH 2A 52yen/1個

これはペロペロキャンディー。

結果

これらは効果があった。
街中の喧騒が一瞬にして止むかのように音が透き通った。

おまけ

DAC出力のカップリングコンデンサとして、シヅキの積層メタライズトフィルム2.2uFとMKT1826 0.022uFをパラっていたが、LTSpiceでシミュレーションしてみると少し容量が足りないように感じた。
これでは重低音がカットされてしまう。
そこで、2.2uFを付け加えることにした。

nosDAC ニッセイ MTF 積層メタライズドフィルムコンデンサ

ニッセイ MTF 積層メタライズドフィルムコンデンサ オーディオ用無酸素銅リード線 2.2uF 147yen/1個

狙い通り、低音が増した。
カップリングにフィルムコンを多数パラに繋ぐのはなかなか良いかもしれない。

フィルムコンはお菓子と間違えて食べてしまいそう。

nosDAC 夜間の美しさ

夜間はこのように美しい。
電灯を落として映画を見る時など、なかなかな趣きを醸し出してくれる。


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